マイクロ・アドバタイジング-car

車を買い換えることにした。

今の車、セクシーなドイツ野郎・通称ボブ
かなり気に入っているのだが、
いかんせん狭いことと、6月あたりに
家族構成が4人になるのに、ドア2枚は攻めすぎ。

後部座席はチャイルドシート2発である。


で、4人乗っても荷物がたくさん入る
ステーションワゴンがいいなということで
いくつか乗ってお気に入りを絞り込んだ。

義理の兄がすでにそれ の大きいやつに
乗っていることもあり、ディーラーを紹介してもらう。



現われた「サトウ」という営業マンは
一見、気の弱そうだが優しそうな印象。

兄がかなりの値引き交渉をしたこともあり、
サトウは嬉しさ半分、緊張半分。
すでに子犬のような目をしている。


軽く試乗して、交渉の席に着く。
サトウには、下取り含めて出せる予算の
85%ほどで、「これしかない」と伝えた。

サトウは困惑した。まさか
「そんな貧乏人にはお引き取り願おう」
とも言えない。紹介の手前もあるし。


「昨年末にでた新モデルでして、、、」
「大変人気がありまして、、、」
「現在のお車の下取りは時期的に厳しめでして、、、」

一通りのプロローグ営業トークを終えて、
サトウは「上の者と相談してきます」と言い、
奥へ消える。


ここまでの話の構成・挙動は、
自分の時と全く同じ展開だと、兄が言った。

恐らく、上の者とは架空の上司で、
一服してるだけだと。
真摯さを強調するための時間稼ぎである。


10分ほど後に、サトウが提示した見積もりは
なかなかであったが、予算からはだいぶ離れていた。
その日はとりあえず帰った。


どうしてもこれが欲しいが、
サトウも金額の話になると、下っ端っぽさを演出して
「私の力ではどうにもならない」的な弱音を吐く始末。


しょうがないので、ボブのニューモデル
迷っている旨を伝えて、すこし揺さぶりをかけた。

・金額的にはニューボブの方がだいぶ安い
・自分はこちらだが、嫁がニューボブを気に入っている

このままだと、俺たち(私+サトウ)負けちゃうぜ!
と、さらにだめ押しした。
これでサトウも動くだろう。


そして次の休日、サトウと最終交渉。

前日までに、ほぼ、できたての彼女みたいに
連日電話していたので、条件提示が早い。


サトウはさらに値段を下げてきてくれた。
だがしかし、予算とはだいぶ離れている。

かなり強いトーンで、嫁がコレで、家計がコレ
だからと訴えたところ、
「上の者と再度話してみます。」
とサトウはまたしても奥に消えた。


またも10分ぐらいして、サトウが戻ってきた。
「ぜひ乗っていただきたいので、こちらで」

おお、予算と近くなる提示。
しかも、「上の、さらに上の者に訴えた」らしい。
架空の部長か!?


だがしかし、だがしかし、
交渉はこれからだと自分に言い聞かせて
サトウを責め立てた。

もはやサトウは私にとって、戦友のような存在。
セナとプロスト、松坂とイチロー、アムロとシャアー。


そこで、とっておきのアイテムを提示。
実印と見せ金(10万円)。

「希望額であれば、今、判子を押すですたい。」
男らしく、漢らしく、言ってみる。


サトウの反応が鈍い、、、。あれ?
本当に限界なのか??

サトウが最終の最終とさらに提示したのは
-1万円。
そんなに刻むのか。

サトウの限界と、自分の予算の間をとろうと
提案しても、-1万円から状況変わらず。。。



息子とそばで遊んでいた嫁が戻ってきて
「だったら今日でなくていいじゃん、帰ろ」
とあっさり言う。

ちょっとまて、今までの俺とサトウの
試合を台無しにする気か。

だが家計を預かる主婦は冷静なのであった。


僕も折れそうになり、ニューボブが脳裏に浮かんだ。
ああ、幻の「駆けぬける喜び 」。
年齢的にも最後のスポーツチャンスよ、サヨナラ。。。


後ろ髪引かれる思いで席を立とうとしたところ、
サトウが最後の「上の者と相談してきます」をだした。
本当に最後だろう。


でてきた条件は、
サトウの最終と、予算を間取った金額。

嫁を尻目に、半ば強引に契約した。
サトウが全力できたのだ、
私も全力で判断せねばならない。


サトウと堅い握手を交わす。
お互いやりきった1時間をたたえるのだ。

となる展開を、イメージしていたのだが、
サトウの「ありがとうございます。」は
心なしか、あっさりしていた、、。


結局のところ、嫁の冷静さが
最後の決定打になっていることは認めたくない。



一通り書類を作成して、サトウは初めて
「自分には11ヶ月の息子がおり、
お客様と近い家族構成です」
と話してきた。

交渉中に、この話をもちださないところに
サトウの男気を感じた。


おお、やはり私が選んだ営業マン。
ちょいちょいセコイが、男らしいぞ、サトウ。



結局のところ、サトウは義理の兄に紹介され、
紹介だからこそ、驚きの条件が出された事実は、
駆けぬける喜びでかき消すことにした。